■序文にもあとがきにも書けない、いわば書き残しの話をどこかで発散するという機会を得るため、ポルトガル語圏では馴染み深い «lançamento» 著書の刊行記念講演を行うようになったのは、ごく最近になってからである。関係各位には «mensagem» をお願いし、ありがたく頂戴する機会ともなってきた。著名な作家や政治家の出版記念会とは性格を異にする催しである。が、著者としては単に悦にいるのではなく、反省の機会でもあり、最後のまとめの機会ともなる。

原稿がワープロで打ち出される時代になり、昔と異なり大量の『印刷原稿』が手元に残る。さらにオンデマンドで出版すれば、校正もすべて手元に蓄積してしまう。これらはなかなか思い切って廃棄しづらいものだが «lançamento» を決別の機会にしようと個人的に考えている。

最初の京都版を撮影したときのことを忘れかけていたが今回の集まりを機にいろいろと思い出した。上田さん、村松さん、高橋君には随分と手伝っていただき、留学生諸君の熱のこもった演技を、二台のカメラを回して異なる角度で二様のフィルムを撮影した。これらを切り貼りして1本のフィルムに仕上げるということが、当時のPC上で素人でも技術的に可能になったから、このようなことを試みたのだと思う。

向こう見ずの計画を重ね、文字通り試行錯誤、紆余曲折の結果、プロフェッショナルな出来栄えのコインブラ版、サンパウロ版ができて、これでまともな解説を行えば本当に価値のあるものになると実感した。

あれからほぼ10年が経ち、このままにしておいては良くないというところを修正し、久保平君の校閲を経て改訂新版をようやく上梓できて幸いである。多くの方にお世話になりこうして形ができあがった喜びを著者ふたりは深く心に感じている次第である。2023年4月28日、彌永記