所有形容詞 adjetivo possessivo
 形容詞の一種で所有代名詞 (pronome possessivo) の形容詞的用法。所有代名詞の名詞的用法に対するもの。後続する名詞を限定し所有、所属、類縁あるいは依存などをあらわす。ポルトガル語の所有形容詞は後続する名詞の性・数に一致するので各人称代名詞について四とおりの形式がある。


■基本的用法
 所有形容詞は通常の形容詞と同様に後続する名詞の性・数によって形式が異なる。複数形は単数形の語末に -s を付加することで得られる。
(1) O meu pai está em Tóquio. 私の父は東京にいます.
(2) Os meus pais estão em Tóquio. 私の両親は東京にいます.
(3) A minha irmã mora em Nara. 私の姉は奈良に住んでいます.
(4) As minhas três irmãs moram em Nara. 私の三人の姉妹は奈良に住んでいます.

 所有形容詞の基本的な位置は名詞の前であるが、名詞のあとに置かれることもある。後者の場合は有標であり文語的かつ強調的な意味が加わる。
(5) O Japão é minha pátria.日本は私の祖国です.
(6) O Japão é pátria minha.日本は我が祖国である.

 所有形容詞の前にはPEでは通常定冠詞を置く。PBにおいては基本的に定冠詞を置かないが必ずしも定冠詞を排除はしない。
(7) O nosso estudo está a avançar. (PE, PB) 我々の研究は進行している.
(8) Onde é que está a sua bicicleta? (PE, PB) 君の自転車はどこにありますか?
(9) Meu pai está bem.(PB) 私の父は元気です.
(10) Minha mãe fez 70 anos. (PB) 私の母は70歳になりました.

 所有形容詞を【不定冠詞+名詞】に付加する場合は、名詞の前に置いても後においてもよい. 複数のなかから任意のひとつをとりあげる意味をあらわす (1) .

(11) O casal conseguiu fugir com uma sua filha (uma filha sua). 夫婦は娘のひとりを連れて逃げ切った.

■多義性
 人称代名詞は機能的人称(話し手、聞き手、その他)を参照するのではなく、あくまで文法的人称を参照するため、所有形容詞も同様に1人称単数、1人称複数、2人称単数以外は参照する対称が一定していない。 A. 3人称の名詞を参照する所有形容詞:seu(s), sua(s). 文法的に3人称の名詞の全てを指すことができるので本質的に多義的であり、その意味は曖昧である。対称(話相手)にかかわることもあれば、他称(話し手、聞き手以外)を指すこともある。

(12) O senhor foi receber o seu amigo? 貴方はお友達を迎えに行ったのですか?
(13) Ele foi receber o seu amigo? 彼は自分の[君の]友人を迎えに行ったのだろうか.

 対称を «tu» で扱っている場合は «seu(s), sua(s)» が必然的に他称を参照することになる。

(14) A frase parece um pouco ambígua. Tens de modificar a sua estrutura. その文はやや曖昧だ. 文の構造をもう少し変えなきゃならないよ.

 なお3人称の所有形容詞は英語で言えば、your, his, her, their, its, のどれにもあたる可能性があるので、文脈によって理解する必要がある. 曖昧さを避けるために «de+名詞» が用いられる.

(15) Já recebeste a carta dela? 彼女の手紙を受け取ったかい?
(16) Vi passar o carro deles. 彼らの車が通るのを見た.

 他称(聞き手)を3人称で扱っている場合、«seu, sua» が対称(話し相手)を直接参照する。従って以下のような対話では、返答の(*)を付した文は話の筋が通らず理解不能の非文となりかねないので «dele» とするのが正しい。

(17) –– A senhora conhece o dr, Mendes? –– Conheço. *Aliás sou muito amiga da sua mulher!

■ 同一文の内部における所有形容詞
 同じ文中において主語の一部をなすものについては所有詞を付ける必要はない.

(18) Lava as mãos. 手を洗いなさい.
(19) Tenho dor nas costas. 腰が痛い.

 上記の例(18) において «as mãos» は文の主語 «tu» の体の一部であり «as tuas mãos» としてもよいが、所有詞は基本的に不要で、所有詞を付加することにより意味が強調される. 例(19) においても同様に «nas minhas costas» における «minhas» は基本的に不要である。同様に以下の (21) , (23) における所有形容詞は義務的ではなく基本的に不要であるが、付加されれば修飾する名詞の帰属が明瞭になるという差を認めることができる.

(20) O árbitro não pode hesitar nas decisões. 審判は決定に躊躇出来ない.
(21) O árbitro não pode hesitar nas suas decisões. 審判は自らの決定に躊躇できない.
(22) O Luís ausentou-se da residência. ルイースは家を留守にした.
(23) O Luís ausentou-se da sua residência. ルイースは自宅を留守にした.  

■ 対称詞複数形
 対称詞主格形との関連において、«tu» の複数形が現代ポルトガル語においては待遇上は «vocês» となるが、対応する所有形容詞は «teu» の系列に対して «vosso» の系列を用いる (2)

(24) –– Ó João.  Vais comer aonde? ジョアン、どこでお昼にする?  –– Vou à cantina.  学食に行くよ.
−− E a Maria? マリーアは?Tu vais lá também. やはり学食に行くの?
−− Vou. そうする.
−− Então, vocês vão ocupar um lugar para mim? じゃ君たち席をひとつ僕に取っておいてくれないか? Pois, preciso de passar pela papelaria. 文房具屋に寄らなきゃならないんだ.


(1) Raposo (2013, p.906) は以下のように述べている. 
«A posição dos pronomes possessivos depende do estuto [±definido] do sintagma nominal: se este é definido, occore à esquerda do nome(cf. o meu amigo); em contrapartida, se este é indefinido, ocorre preferencialmente à direita do nome:cf. um amigo meu)» (itálico é nosso).
 しかしながら現代語コーパス(Cetempúblico)を検証すると、«um/uma + substantivo + meu/minha» と«um/uma + meu/minha +substantivo» は659件:21件で確かに前者が圧倒的に好まれるが «um/uma + substantivo + seu/sua» と«um/uma + seu/sua + substantivo» は1,345件:1,587件でむしろ後者が多い. より詳細な研究が待たれる.

(2) 詳しくは以下を参照
RAPOSO, Eduardo Buzaglo Paiva (2013) Pronomes, in Raposo, Eduardo Buzaglo Paiva et alii. Gramática do Português, Volume I., p 906-613. Lisboa, Fundação Gulbenkian.
彌永史郎 (2011) ポルトガル語四週間, p. ??-??, 東京、大学書林.


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