接続法 conjuntivo | subjuntivo
 接続法は直説法、命令法とならぶ叙法のひとつで原語の用語はNGPでは «conjuntivo», NGBでは «subjuntivo» である。用語 «conjuntivo» の原義が「〜に連繋した」という意味をあらわし、また«subjuntivo» が「〜に従属した」という意味をあらわしているとおり、接続法の叙法的機能は「いまだ実現されておらず、他の状況に連繋した状況をあらわす」と伝統的には説明される(Cunha e Cintra, 1984, p.464). 用語の原義に深くかかわることには意味がないが、一般的に知られている通り、接続法に置かれる動詞形は接続詞に導かれる従属節の内部でみられる。 接続法には以下の6種類の範疇がある。


 本小辞典においては、原語の名称との対応を尊重しつつ文法用語としての翻訳の正確さを期し、さらに直説法の名称と並行性を保つ用語を用いている。いっぽうで 半過去形(Pretérito imperfeito)を「過去」、過去形(Pretérito perfeito composto)を「現在完了」、大過去形(Pretérito mais-que-perfeito composto) を「過去完了」複合未来形(Futuro perfeito)を「未来完了」とする体系もある。しかしこの用語体系の問題は一例をあげると、接続法の«Pretérito imperfeito do conjuntivo | subjuntivo» を「過去」と呼ぶことにすると、直説法において«Pretérito imperfeito do Indicativo» には「不完全」(imperfeitoは「未完了」の意味)を冠して「不完全過去」とするので混乱は免れない。原語が同じ «Pretérito imperfeito» (未完了過去形)であるにもかかわらず日本語用語において元来同一の原語から離れた別々の用語(直説法では「不完全過去」、接続法では「過去」)をあてているからである。これに関する考察は彌永(1992)を参照されたい。

1. 主節で用いられる接続法
 接続法は主節で用いられる場合はきわめて限られている。以下のように(1)文法的に2人称の語を主語としない肯定命令文、(2) 全ての人称を主語とする否定命令文ならびに(3) 副詞 talvez の後に動詞が続く場合のみである。
(1) Leia o texto. テキストを読みなさい.
(2) Não fales tão alto. そんな大きな声で話すな.
(3) Talvez ele compre o novo modelo. 多分彼は新しいモデルを買うのだろう.

 命令文における接続法は、実際に (4) のような文があることから、主節の省略された複文の従属節が起源であることは明らかである。
(4) Que venha! 来たまえ.

 また伝統的には命令法と接続法にまたがっている命令をあらわす動詞の諸形式をまとめなおし、命令法自体のパラダイムを合理的に編成し直す考え方もある。
Dicionário Priberam da Língua Portuguesa (http://www.priberam.pt/dlpo/) にもとづき作成.

2. 従属節で用いられる接続法
2.1. 接続法と直説法
 従属節で接続法が用いられるか否かは主節の動詞によって決まっている。
(5) O rapaz está em casa. その子は家に居る.

 主節の動詞を «saber» とすると従属節には直説法が用いられ(6) が得られる。
(6) Sei que o rapaz está em casa. 私はその子がうちに居るとわかっている.

 主節動詞を«querer» に置き換えると、従属節内では自動的に接続法が用いられ(7) が得られる。
(7) Quero que o rapaz esteja em casa. その子が家に居てくれるといいが.

 いっぽう主節動詞が肯定文なら直説法(8)をとり、否定文なら接続法(9) をとると決まっている動詞もある。
(8) Acredito que o rapaz é honesto. その青年が正直だと信じている.
(9) Não acredito que o rapaz seja honesto. その青年が正直だとは思えない.

 これに反して、主動詞の肯定・否定に関わらず直説法をとる場合もある。
(10) Sei que o rapaz é honesto. その青年が正直だと知っている.
(11) Não sei se o rapaz é honesto. その青年が正直かどうか知らない.

 以上からわかるように、接続法を用いるかどうかは基本的に主動詞により決定するので、従属節における接続法はその形式に意味があるかどうかは疑問で(Oliveira, 2003, p.258)、統語的な要請によってあらわれるものと考えるほうが合理的である(彌永,2012, p.178)。接続法を従属節において要求するか否かという性質は基本的には伝統的に動詞の支配と呼ばれる統語的特徴のひとつとみなすべきである。

2.2. 接続法の時称
 接続法には6種類の時称範疇があるが、これらは基本的に直説法と同様の指呼的機能を持つ。すなわち時間軸に対する前後関係をあらわす。たとえば(12) に対して(13) を対比してみよう。
(12) Sei que o João está em casa hoje. 今日はジョアンが家に居るのを知っている。
(13) Sabia que o João estava em casa ontem. 昨日ジョアンが家に居るのを知っていた.

 ここで主動詞を «saber» から«querer» に変更すると以下の(14), (15) が得られる。
(14) Quero que o João esteja em casa hoje. きょうはジョアンには家に居てほしい。
(15) Queria que o João estivesse em casa ontem. 昨日ジョアンには家に居てほしかった.

 上の(13)と(15)の従属節に置ける直説法と接続法の対照は過去形においても同様である。以下の(16)と17を比較してみよう。
(16) Penso que chegaste são e salvo. 無事帰着したことと思う.
(17) Espero que tenhas chegado são e salvo. 無事帰着したことと願っている.

 過去のある時点を基準にふたつ以上の状況の前後関係を考察しても同じような並行関係をみることができる。主動詞が従属節に接続法を要求しない «compreender» を例に以下の(18), (19) を比較してみよう。
(18) Quando li a resposta dela, compreendi que a Maria percebia mal a minha proposta. 彼女の返事を読んだ時、マリーアさんは私の提案を誤解するのだと悟った.
(19) Quando li a resposta dela, compreendi que a Maria tinha percebido mal a minha proposta. 彼女の返事を読んだ時、マリーアさんは私の提案を誤解したのだと悟った.

 ここで従属節を導く主動詞として«compreender»のかわりに接続法を要求する主動詞 «recear» を代入してみれば以下の(20), (21)が得られる。
(20) Quando li a resposta dela, receei que a Maria percebesse mal a minha proposta. 彼女の返事を読んだ時、マリーアさんは私の提案を誤解するのではと不安になった.
(21) Quando li a resposta dela, receei que a Maria tivesse percebido mal a minha proposta. 彼女の返事を読んだ時、マリーアさんは私の提案を誤解したのではないかと不安になった.

 このように接続法においても直説法と同様、時間的な前後関係を指定する機能を果たしている。ただし接続法・未来形、および接続法・複合未来形は条件や時間をあらわす副詞節においてのみあらわれるという特徴を有する。
(22) No fim do ano letivo, quando eu tiver gastado toda a verba, não poderei comprar nem um papel. 学年度末に予算を使い切っていたら、紙一枚買えないだろう.
(23) No fim do ano letivo, quando eu gastar toda a verba, poderei contar com o orçamento do próximo ano. 学年度末に予算を使い切れば、来年度予算を当てにすることができる.

3. 条件文で用いられる接続法

 条件文の条件節において、接続法が用いられる。詳しくは条件文の項目を参照されたい。

参考文献
彌永史郎(1991) 「ポルトガル語の時称 −− 日本語による述語目録の統一」 『Anais XXV』 日本ポルトガルブラジル学会
彌永史郎(2008) 「ポルトガル語接続法の時称」 『京都外国語大学研究論叢 LXXI』 p.167-180.
Cunha, C. e Cintra, L. (1984) Nova gramática da língua portuguesa, Sá da Costa, Lisboa.
Oliveira, F. in: Mateus, M.H.M. et alii (2003) Gramática da língua portuguesa, 6ª edição, Caminho, Lisboa.

Copyright © 2013 Shiro Iyanaga All rights reserved.